ゴッホの人生
美術史家は、ゴッホのスタイルの変化を、セザンヌにも共通する、古典主義から「バロック化」への動きとしてとらえています。
そうも言えるでしょう。
ただ、ゴッホは、この場合も、「バロック化」を、そのもっとも危機的な姿にまで追いつめています。
つまり、ゴッホにおいては、「バロック化」は、単なる様式上の変化展開に尽きるものではありません。
それは、アルル時代の作品に見られる生の一元的強行から、生と死が、互いに激しくひきあうと同時にしりぞけあう、切迫した対立への展開にほかならないのです。
この場合、画家自身も、もはや対象の外部にあって対象を見ていることは出来ません。
対立は、対象のうちにのみあるのではなく、画家の内部にもあるのです。
こうして、今や、描くとは、対象と画家をともに包む、生と死の運動そのものに身を委ねることとなります。
その点、ゴッホが、サン・レミ時代の或る手紙のなかで「タッチ、筆勢とは何と不思議なものだろう」と言っていることはいかにも興味深いです。
「タッチ」こそ、このような運動に身を委ねるための接点にほかならないからです。