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2010年07月 アーカイブ

ゴッホの人生

美術史家は、ゴッホのスタイルの変化を、セザンヌにも共通する、古典主義から「バロック化」への動きとしてとらえています。


そうも言えるでしょう。


ただ、ゴッホは、この場合も、「バロック化」を、そのもっとも危機的な姿にまで追いつめています。


つまり、ゴッホにおいては、「バロック化」は、単なる様式上の変化展開に尽きるものではありません。


それは、アルル時代の作品に見られる生の一元的強行から、生と死が、互いに激しくひきあうと同時にしりぞけあう、切迫した対立への展開にほかならないのです。


この場合、画家自身も、もはや対象の外部にあって対象を見ていることは出来ません。


対立は、対象のうちにのみあるのではなく、画家の内部にもあるのです。


こうして、今や、描くとは、対象と画家をともに包む、生と死の運動そのものに身を委ねることとなります。


その点、ゴッホが、サン・レミ時代の或る手紙のなかで「タッチ、筆勢とは何と不思議なものだろう」と言っていることはいかにも興味深いです。


「タッチ」こそ、このような運動に身を委ねるための接点にほかならないからです。

ゴッホの人生 2

孤立と孤独のなかでおのれをいため続けてきたゴッホにとって、病院での生活は特にどうということはなかったようです。


着いた直後の手紙で、彼は、「こちらへ来てよかったと思ってる」こと言い、「次第に、狂気も他の病気と同様ひとつの病気なのだと考えられるようになってくる」と言っています。


同封した義妹への手紙でも「みんなアルルの善良な市民よりはつつしみ深く礼儀正しくて、ぼくを静かにしておいてくれる」から、「ここやアルルの病院にいるほど落ちついたことはこれまでない」と言っています。


もちろん、このような最初の印象がそのまま続くわけではなく、やがて、病院の扱いに、控え目ながら不満をもらすようにもなりますが、少くとも、病院生活が、彼を、日常生活においての、周囲の人間とのいざこざから救ったことは確かでしょう。


しかし、それはまた、彼を、発作への不安に、つねに直面させ続けることともなったはずです。


発作のあと、彼は「この何日間か、ぼくはアルルにいたときと同じように『完全に気がふれていた。』


以前より悪いとは言わぬまでも同程度にひどかった。


それにああいう発作がまた続いてぶりかえさぬとも限らぬと考えられることは、じつに『気の滅入る話』だ」と言います。


そして、そういう発作の合間に、狂気によってさらに増幅されたような異様な覚醒状態のなかで、「憑かれた人間のように」仕事を続けるのです。

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