ゴッホの人生 7
悲しみや極度の孤独も、もはや自分のものではなくなったような、おのれの孤独に対しても孤独になったような、そういう心の状態をそれらの絵は見る者に示すのです。
彼は、母と妹にあてた最後の手紙で、
「今のところ、去年よりも落着いた気持ちでいます。
頭のなかのかつての錯乱はたいへん治りました。
実を言えば、昔住んでいたあの辺りを再び見ればそういう効果が表われるのではないかと、かねてつねつね思っていたのです」と言います。
「それこそお母さんが言っておられるように、健康のためには、庭で働き、花が育つのを見ることが必要です」と言います。
そして、現に描いている麦畑の絵に触れたあとで、
「ぼくは今、完全に、静かすぎるほど静かな気分、ちょうどこれを描くのによい状態にいます」と言うのです。
しかし、彼には、この「静かすぎるほど静かな気分」のあとに何が待っているかが、よくわかっていたはずです。
まるで、それを予感したように、彼は、世界が裂け崩れてゆくような、絵画そのものさえ裂け崩れてゆくような、あの『鴉のいる麦畑』を描いたのです。
そして、ついに、筆は、画家の手から落ちました。
私は、オーヴェールの野に立ちながら、ゴッホの「悲しみ」と、「極度の孤独」を想いました。
刻々に、絵画そのものとさしちがえているような、その短く激しい生涯を思いました。
彼のさまざまなことばが私のなかによみがえりましたが、それは過去の方からではなく、未来の方からきこえてくるようにも思われたのです。
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